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流涙症で困っている方へ
愛媛大学医学部 眼科学講座教授 白石 敦
いつも涙がこぼれて困る、風が吹くと涙が出る、テレビを見ていると涙が出る、目やにがいつも出るけれど、我慢できるからと悩んでいる人はいませんか?涙で困って眼科を受診する人は意外に多く、患者さんの5人に1人ぐらいいると言われています。
涙が出る原因は様々で、対処法、治療法も異なります。涙目の原因を理解し、適切な対処法で、涙目から解放されましょう。
愛媛大学医学部 眼科学講座教授
白石 敦
涙は目の表面を覆うことにより、外界から目を守る大切な働きをしています。
涙には水分のほか、電解質、タンパク質や糖分などの栄養素、それに抗菌物質も含んでいます。
そのため涙は、目の表面を覆って乾燥から守るだけでなく、目に栄養を届けたり、ゴミやほこりを洗い流したり、細菌などから目を守る働きをしています。
涙は、上瞼の外側あたりにある、涙腺という涙を作る組織から分泌され、目の表面を一様に潤します。
目の表面を潤した涙は、瞬きのたびに上下瞼の内側にある涙点という小さな穴より、涙の通り道である涙道に流れ込みます。
涙道を通った涙は、最終的に鼻腔に流れ出します。
涙は、川の流れのように、常に涙腺から鼻腔まで流れています。
大雨が降ったり、川がせき止められると氾濫するように、涙が急にたくさん分泌したり、涙道が詰まると、涙があふれます。
このような状態を、流涙症(りゅうるいしょう)と呼びます。
目にゴミが入ると、目が痛くなると同時に、涙が出る経験をしたことがあると思います。
目には、異物が入ると、涙を出して排除する働きがあります。バイ菌や花粉も同様に異物ですので、バイ菌が入った時の結膜炎や、花粉症でも、痛みやかゆみ、眼脂(めやに)と一緒に涙が出て流涙症になります。
また、逆まつげなどが目をつついているような時にも、刺激で流涙が起こります。
涙の流れが悪くなる主な原因は、涙の流れ道が詰まる涙道閉塞です。しかし、目の表面も、涙の流れ道となっているため、結膜(白目)に皺ができる結膜弛緩症でも、涙の流れが悪くなり、流涙症状を起こします。
皮膚と同じように、加齢とともに皺のできる高齢の方では、結膜弛緩症が原因の流涙症がよく起こります。
また、瞼は瞬目をすることにより、涙を送り出すポンプの役割をしていますので、瞼が緩む眼瞼内反症や、眼瞼外反症でも涙が溜まり、流涙症を起こします。
流涙症で最も多いのは、涙がこぼれるといった症状ですが、涙が溜まるとぼやけて見えたり、メガネをかけている人ではメガネが曇るといった症状が出ます。
また、涙がこぼれると、周りの皮膚がただれたり、擦って切れたりします。
涙道閉塞などでは、細菌が流れずに涙道内に溜まって、感染して涙嚢炎を起こすことがあり、目やにが出ることもあります。
涙道は、上下眼瞼(瞼)の内側にある、小さな穴である涙点に始まり、涙小管、総涙小管、涙嚢、鼻涙管、そして開口部が鼻腔に開いています。
この涙点から、鼻涙管開口部のどの部分に閉塞や狭窄が起きても、涙液の流れが悪くなり、流涙症を引き起こします。また、鼻涙管は鼻腔に開口していますので、花粉症などの鼻炎症状が強い場合にも、鼻水で開口部が詰まって、涙道閉塞と同じ症状になることがあります。
流涙症の検査では、涙が過剰に分泌されているのか、涙の流れが悪いのかを確認します。
まず、瞼や目の表面に涙の分泌が多くなる原因が無いか、細隙灯顕微鏡検査で観察します。
つづいて、涙管通水検査を行い、涙道閉塞があるか無いかを調べます。
涙道閉塞が疑われる場合には、より詳しく調べるために、涙道内視鏡を使って、
涙道の中を直接観察することもあります。
◯細隙灯顕微鏡検査(さいげきとうけんびきょうけんさ)
細隙灯顕微鏡検査は、眼科の診察に欠かせない検査で、光を当てながら、顕微鏡で目の表面を詳しく観察する検査です。
涙の量が増えてないか観察し、逆まつげ、目の傷、結膜炎や結膜弛緩症などが、細隙灯顕微鏡検査で確認できます。
◯涙管通水検査(るいかんつうすいけんさ)
注射器を使って、涙点から涙道内に水を流し込んで、鼻腔まで通過があるか、確認する検査です。
〇涙道内視鏡検査(るいどうないしきょうけんさ)
胃カメラ(胃内視鏡)や大腸ファイバー(大腸 内視鏡)のように、涙道の内部を観察できるのが涙道内視鏡です。
細い涙道内に挿入できるように、1ミリよりも細く設計されており、涙道の閉塞や狭窄部位を直接観察することができます。
涙道閉塞は、点眼や内服薬などの内科的な治療では治りませんので、手術による治療が必要になります。
治療方法には、閉塞した部位を開放して再びつまらないように、一定期間の間チューブを挿入しておく、涙管チューブ挿入術と、鼻腔と涙道の間に、新しい涙の通り道を作る涙嚢鼻腔吻合術があります。
◯涙管チューブ挿入術(るいかんチューブそうにゅうじゅつ)
涙道の閉塞した部位を開放して、涙管チューブを涙点から鼻腔まで挿入します。
涙管チューブはヌンチャクのようなかたちをしていて、上下の涙点から挿入すると眼から涙道を通って鼻腔までぶら下がったような状態になります。
通常、2-3か月チューブを挿入しますが、チューブを挿入している間に、閉塞していた涙道が正常に戻ったら、チューブを抜去します。チューブを挿入していても、ほとんど違和感はなく、通常の生活を送ることができます。
◯涙嚢鼻腔吻合術(るいのうびくうふんごうじゅつ)
涙道閉塞が、涙嚢より鼻側にある場合には、涙嚢と鼻腔のと間に新しい涙の通り道を作る手術を行います。
涙嚢と鼻腔の間には薄い骨があり、その骨を削る必要があるため、涙管チューブ挿入術よりも侵襲が大きい治療法になりますが、涙管チューブ挿入術に比べて治る確率が高い治療法です。そのため、涙管チューブ挿入術を行えない場合や、再発する場合、再発をしたくない場合などに行われます。
目頭のあたりの皮膚を切開しておこなう方法と、鼻の中から鼻内視鏡を使って行う方法があります。全身麻酔や入院が必要な場合もあります。
身近に、生まれた直後から、目がウルウルしている赤ちゃんを見かけた経験のある人がいると思います。
生まれながらに涙道閉塞のある、先天鼻涙管閉塞の赤ちゃんは比較的多くいます。
涙道が開通しないまま生まれてくることが原因なので、成長とともに自然に治ることが多く、1歳頃までに、90%近くが自然治癒するといわれています。
しかし、治るまではウルウルして、目やにが出ることもあり、ブジーという細い針金を涙道に通して、開放する治療をすることもあります。
抗がん剤の中には、細胞の増殖を抑えるものが多く、涙道の細胞の増殖が抑えられるために、涙道閉塞を起こすことがあります。
どの抗がん剤でも可能性はありますが、中でもS-1という胃がんや大腸がん、乳がんなどの癌に幅広く使われている抗がん剤で、涙道閉塞を起こす患者さんが多くいます。
涙点や涙小管といった、涙道の中でも細い管の部分が閉塞することが多く、一度閉塞すると、開放することが難しい場合が多いのが特徴です。もし、抗がん剤を飲み始めて流涙症状が出た場合には、早めに眼科を受診しましょう。
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絵 清水理江
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