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ウイルス性結膜炎

東京女子医科大学眼科 助教授 高村 悦子

「めやに」がでて白目が赤くなる結膜炎、原因には様ざまなものがあります。中でもウイルスによっておこる結膜炎は、感染力が強いことから「はやり目」と呼ばれ、目をこすった手やハンカチなどから他の人にうつることがあります。
かかった場合は、人にうつらないようによく注意しないと、家庭、学校、職場で、家族やお友達に広がってしまい、日常生活にも支障をきたします。
でもこの病気について正しい知識をより多くの方がもつことで、大きな広がりは防ぐことができると思います。
この一文では、ウイルス性結膜炎の原因、治療、うつさないための日常の注意などについてお話ししましょう。

結膜(けつまく)は目の表面をおおう薄い透明な粘膜で、黒目(角膜)(かくまく)のまわりの白目の表面と、まぶたの裏をおおうピンクの部分からなっています。目の表面の粘膜には、目に入ってきた異物や病原体が目の中に侵入するのを防ぐはたらきがあります。

結膜炎になると白目が充血して赤くなり、「めやに」がでたり、涙がでたりします。まぶたがはれることもあります。黒目(角膜)や茶目(虹彩)(こうさい)の炎症では黒目のまわりから赤くなりますが、結膜炎では、まず目もとや目じりに近い白目が充血します。

目の構成図

結膜炎は結膜におきた炎症のことで、その原因には細菌、ウイルス、クラミジアなどの病原体や、花粉やハウスダストによるアレルギーがあげられます。
見ただけでは結膜炎の原因まではわからないのがふつうですが、原因によっては充血の程度とか「めやに」の色や状態に特徴がみられることがあります。細菌性結膜炎では黄色い粘り気のある「めやに」がでることが多く、アレルギーでは白っぽい糸をひくような「めやに」がでます。

ウイルス性結膜炎の中でも、人にうつりやすいものを「はやり目」とよび、これには、流行性角結膜炎(りゅうこうせいかくけつまくえん)咽頭結膜熱(いんとうけつまくねつ)急性出血性結膜炎(きゅうせいしゅっけつせいけつまくえん)の3つがあります。
流行性角結膜炎と咽頭結膜熱の原因はアデノウイルスで、急性出血性結膜炎の原因はエンテロウイルスかコクサッキーウイルスです。感染してから発症するまでを潜伏期といいますが、アデノウイルスでは約1週間、エンテロウイルスでは約1日です。
ウイルスによる結膜炎には「はやり目」の他に、単純ヘルペスウイルスや帯状(たいじょう)ヘルペスウイルスによるものもあります。しかしこれらのウイルスは人にうつることはまれで、はやることもありません。

流行性角結膜炎は、アデノウイルス8型、19型、 37型によっておこるウイルス性結膜炎です。ある日、急に白目が真っ赤になり「めやに」がでます。「めやに」は大量で、朝起きたとき「めやに」で目が開かないくらいになります。涙目になったり、まぶたがはれることもあります。細菌など他の原因による結膜炎にくらべ症状は重いことが多く、耳の前にあるリンパ節がはれて触ると痛みがあります。
子どもや症状が強い人の場合は、まぶたの裏の結膜に偽膜という白い膜ができ、これが眼球の結膜に癒着をおこすことがあります。また炎症が強いと黒目の表面がすりむける角膜びらんを伴い、目がゴロゴロしたり、とても痛くなることがあります。

発病から1~2週間して、黒目に小さい濁り(点状表層角膜炎)(てんじょうひょうそうかくまくえん)がでてくることがあります。濁りがでると、まぶしさやかすみを感じたりします。自然に消えることが多いのですが、重症な場合はステロイド点眼薬を使用すると効果があります。アデノウイルスは結膜だけでなく角膜にも炎症をおこすので、流行性角結膜炎という病名がついています。
結膜炎は発病から1週間前後で症状がピークをむかえ、その後だんだん軽くなり2~3週間で治ります。片方の目に発症して4,5日後に、もう一方の目にも同じ症状がでてきます。症状は時間がたつほど軽くなりますが、角膜の濁りはもう少し長引きます。

アデノウイルス3型、4型、7型に感染すると、結膜炎だけでなく、のどの痛みや熱がでる咽頭結膜熱をおこします。39度前後 の発熱が数日つづき、のどの痛みも、ものが飲みこめないほどひどくなる場合があります。時には吐き気や下痢などおなかの症状を伴います。中には結膜炎か咽頭炎のどちらかの症状だけの人もいます。

1週間くらいでよくなりますが、数週間、便の中にウイルスがでています。結膜炎が治ってもすぐにプールの許可がでないのは、このためです。
学校や公共の施設のプールでは、ウイルス対策として残留塩素濃度を0.5~1.0ppmと高くしてあります。けれどこれは目の粘膜に刺激があるので、プールで泳ぐときはゴーグルをつけたほうが安全です。

別名をアポロ病といい、エンテロウイルス70型かコクサッキーA24変異株によっておこります。この結膜炎がはじめて大流行した年に、アメリカのアポロ11号が人類初の月着陸を成し遂げました。月からもち帰った病原体がこの結膜炎の原因でないかと疑われましたが、その後、日本人の科学者が原因ウイルスを発見しました。

アデノウイルスによる結膜炎と同じような症状で1週間くらいで治ります。角膜に濁りはでてきませんが、はじめのうちは目がとてもゴロゴロします。
1970年代には、白目に出血する結膜下出血がこの結膜炎の特徴だったので、急性出血性結膜炎という病名がつけられました。しかし、その後ウイルスの性質が変わって、最近では結膜下出血を見ることは大変まれになりました。

細菌性結膜炎では抗菌薬を2~3日点眼すれば、症状が改善して治ります。ところが「はやり目」といわれるウイルス性結膜炎には、今のところ特効薬はありません。感染したウイルスに対する免疫ができて、自然に治るのを待つしかないのです。
ウイルス性結膜炎では、感染してから抗体ができ、それがウイルスを退治するまでに時間がかかるので、治るのに2~3週間かかってしまいます。

特効薬はありませんが、炎症をおさえたり、細菌の混合感染を予防するための点眼薬を使用します。
ウイルス性結膜炎は片方の目から症状がでます。その時期には症状のある目だけに点眼してください。もう一方の目は、症状がでるのが遅いほど軽くすみますが、両眼に点眼すると点眼薬の容器から感染することがあるからです。
流行性角結膜炎では、角膜びらんを伴うことがあります。この場合は、抗菌薬の点眼や眼軟膏(がんなんこう)を積極的に用いて、感染を予防する必要があります。また点状表層角膜炎に対しては、濁りをとるためにステロイド点眼薬を使います。

「はやり目」と診断されたら、家族やまわりの人にうつさないように注意する必要があります。ウイルスは、目をこすったりふいたりしたハンカチなどから、他の人にうつる危険があります。
感染を予防するためには、まずセッケンと流水で手や指についたウイルスをよく洗い流すことです。
「めやに」や涙がでると、つい目を触りたくなります。このような場合はハンカチやタオルではなく、ティッシュペーパーなど使い捨てのものでふき取り、すぐ捨てましょう。

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感染の危険は、流行性角結膜炎や咽頭結膜熱では発病から約2週間、急性出血性結膜炎では3~4日です。
発病から日が浅いほど感染の危険が高くなります。この時期には自宅療養をしてください。
ウイルス性結膜炎と診断されたら、幼稚園や学校はお休みしなければいけません。
かかりつけの眼科の先生に診断書をかいてもらい、よくなったら治ったことを確認していただいて登校しましょう。

咽頭結膜熱では、目の症状が消えた後でもふん便中に1ヵ月はウイルスがでているので、この間はプールは禁止です。
学校の水泳教室やスイミングスクールの予定がある場合は、かかりつけの眼科の先生に相談してください。
なにしろ相手は目にみえないウイルスなので、完璧な感染予防は難しいのです。職場でも、同僚や仕事相手にいつうつるとも限りません。原則としてお仕事も休んでください。2週間以内には仕事に復帰できるのですから。

  • タオルなど顔に触れるものは、家族とは別のものを使う。
  • ウイルスは熱に弱いので、食器やタオルなどは煮沸消毒する。
  • 家庭では、目やにをふいたティッシュペーパーは専用のビニール袋に捨てて、掃除のときにゴミ箱の中身に触らずにすむよう工夫をする。
  • お風呂は最後に入る。

麻疹(ましん)(はしか)や風疹(ふうしん)(三日ばしか)は、一度かかると再びその病気に感染することはありません。これはからだの中にウイルスに対する抗体ができ、その後も免疫という見張り番をするからです。このようなタイプの免疫を終生免疫(しゅうせいめんえき)といいます。「はやり目」をおこすウイルス性結膜炎の場合も終生免疫ができるので、一度つらい思いをすればもうかかることはありません。ただしウイルスの種類が異なれば、またかかることもあります。

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