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ドライアイに悩む方へ―生活の注意と治療の目安―
東京歯科大学市川総合病院 眼科 教授 同 角膜センター長 島﨑 潤
ドライアイは、慢性的な眼の不快感を引き起こす主要な原因であり、失明に繋がることはないものの、生活の質を長期にわたって損なう疾患です。最近の調査によって、ドライアイ患者さんの数は増えてきていることが分かってきました。
コンタクトレンズ装用や長時間のコンピュータ作業など、私たちを取り巻く環境にはドライアイを悪化させるものがたくさんあります。一方で、新しい作用機序を持つ医療用の点眼薬が発売されるなど、ドライアイの研究や治療も大きく進歩しています。ドライアイによる眼の不快感をコントロールするための手立ては増えてきています。
この冊子で正しい知識を得ていただき、眼の不快感でお悩みの方は、ぜひ一度眼科医の診察を受けてください。
東京歯科大学市川総合病院 眼科 教授 同 角膜センター長
島﨑 潤
私たちの周りには、ドライアイ症状を持った人がたくさんいます。あなたもその一人かもしれません。
最近行われた日本人の疫学調査によれば、40歳以上の成人の17.4%がドライアイであったということが分かりました。少なく見積もっても1000万人以上がドライアイということになります。
更にオフィスワーカーを対象とした研究では、全体の60%以上が、ドライアイもしくはその疑いということも分かりました。
オフィスワーカーのドライアイ率
ドライアイは多彩な症状を生じさせます。「乾く」という訴え以外にも「ゴロゴロする」「目が開けにくい」「疲れる」という訴えもよく聞かれます。
近年の研究によって、ドライアイは「何となく見えづらい」など視機能の異常もきたすことが明らかとなりました。
ドライアイは、失明に繋がる病気ではありませんが、日常生活での不自由を引き起こし、生活の質を落とす疾患であるといえます。
ドライアイは、患者さんの生活スタイルや環境にも、大きく影響を受けていることが分かりました。
ドライアイによるつらい症状を和らげるためには、悪化要因を減らす取り組みも重要です。
- 【ドライアイを悪化させる3つの「コン」】
- 1.エアコン
低湿度や低温は、涙の蒸発を亢進させるのでドライアイを悪化させます。冬場になるとドライアイが悪化するのはそのためですが、冬以外でも、エアコンの効き過ぎや送風を直接受けるような環境はよくありません。 - 2.コンタクトレンズ
他の悪化要因としてはコンタクトレンズがあります。コンタクトレンズは、薄い涙の膜をレンズの表面と裏側の2つの層に分けてしまいます。本来の膜よりも薄くなった涙の層は、より不安定な状態となるので、ドライアイが悪化してしまうと考えられます。 - 3.コンピュータ
更に近年影響が明らかとなっているのが、コンピュータに代表されるVDT作業※です。コンピュータ作業を日常長く行う方では、ドライアイが生じやすくなることが分かっています。
※VDTはVisual Display Terminalsの略。ディスプレイ、キーボードを用いた様々なコンピュータ作業
これらの要因、すなわち「エアコン」「コンタクトレンズ」「コンピュータ」の3つの「コン」の悪影響を理解して、対処することが重要です。
ドライアイを悪化させるもの
- 【ストレスは涙の分泌を減らす】
- 涙液の分泌は、副交感神経が優位になってリラックスした時に増えますが、交換神経の活性化が続く「ストレス状態」では、涙液の分泌が抑えられてしまいます。そのため、週末の休みにはドライアイ症状が軽減することもよく経験されます。
- 【膠原病や自己免疫疾患】
- 膠原病や自己免疫疾患の多くは、ドライアイを高率に合併します。その代表は、シェーグレン症候群という自己免疫疾患で、涙腺や唾液腺の組織に対する免疫反応が生じ、強いドライアイや口腔乾燥症状をきたします。
口が乾いたり、関節痛を伴うような方は、内科での検査も受けたほうがいいでしょう。 - 【性別と年齢】
- ドライアイは、男性に比べて女性の方が約2倍罹りやすいことが知られています。左ページに述べたシェーグレン症候群では、女性の割合が男性の10~20倍多いといわれています。
また、加齢とともにドライアイの頻度は増えていきます。実際ドライアイで最も多いのは、中年すぎの女性の方です。 - 【薬とドライアイ】
- ある種の内服薬は、涙液の分泌を減らします。抗不安薬や抗精神病薬の中には、ドライアイを生じやすくするものがあり、他にも抗ヒスタミン薬や利尿剤の一部とも関連しています。
これらの薬を長年服用されている方で、ドライアイに悩んでおられる方は、主治医と相談されたほうがいいかもしれません。
- 【ドライアイは乾き目と同じではない】
- 以前は「ドライアイ」という言葉自体あまりポピュ ラーでなく、「乾性角結膜炎」などが医療現場では多 く用いられていました。これは「涙の量が減ることで 眼の表面が傷つく」という概念に基づいていました。
しかしながら、現代のドライアイの大半は、「涙の 量は保たれているのに眼の表面に留まる力が弱い」 ことによっていることが分かり、「涙液の安定性低下」 がドライアイの根幹であると考えられています。
目の表面はいつも涙に覆われています
- 【なぜ涙液の安定性が悪くなっているのか?】
- ではなぜ、涙が眼の表面に留まりにくくなってい るのでしょうか?確かなことは分かっていませんが、 角膜や結膜の表面にある「膜型ムチン」との関連が 推測されています。
細胞の表面はもともと疎水性(水を弾く性質)で すが、この膜型ムチンがあることで涙が乗りやすく なっています。この膜型ムチンが出にくくなってい ることが、現代のドライアイの大きな原因ではない かと多くの研究者が考えています。
涙液におけるムチンの分布
ドライアイの患者さんから、よく「ドライアイは治らないのですか?」とか、「一生目薬を続けないといけないのですか?」という質問を受けます。
ドライアイは生活の質を落とす慢性の疾患です。残念ながら、治療を続ける必要がなくなる「完治」が得られる病気ではありません。
点眼などの治療を続けることで、生活の質を落とさないようにすることが治療の目的です。
- 【悪化要因を減らす】
- ドライアイ治療は「悪化要因の除去」と「点眼薬による水分の補充」、そして「その他」に分けることができます。
まずは、自分の環境の中で、ドライアイを悪化させている可能性があるものを減らす努力をしましょう。
仕事場が乾燥していたり、エアコンや暖房器具が効きすぎている場合には、加湿器を入れるなどして対応しましょう。
日中コンタクトレンズをずっとつけている人は、夜間や週末は装用を減らして目を休ませてあげることも重要です。 - 【点眼薬による治療は「使い分け」の時代へ】
- ドライアイの点眼治療は、外から水分を補うことが主流でした。人工涙液、ヒアルロン酸製剤などがその代表です。
しかしながら近年、眼の中から水分やムチンなどを出させる点眼薬が登場してきました。これまでにない「体の中から治す」ドライアイ治療薬といえます。
通常の点眼薬では不十分な重症のドライアイ患者さんには、自分の血液から作る「血清点眼」や、涙の出口を塞ぐ「涙点プラグ」などの治療もあります。
ドライアイは、タイプや重症度、患者さんご自身の好みや使い勝手によって、治療法を選択できる時代になってきています。
ドライアイ、4つのアプローチ
- Q :薬局で買う点眼薬ではいけませんか?
- A :薬局でもいわゆる「人工涙液」と呼ばれる点眼薬を手に入れることができます。これらは、水分補給としては有効ですが、短時間で元に戻ってしまいます。また、種類によっては防腐剤が含まれているものもあり、たくさん使うことでかえって障害を起こす場合もあります。
単に充血を取るための点眼薬は、副作用のほうが強いことが多いので避けたほうがいいでしょう。 - Q :サプリや飲み薬では治療できないの?
- A :最近発売された乳酸菌を含むサプリメントは、ドライアイを軽減させる効果が有るのではないかと注目されています。
また、シェーグレン症候群による口腔乾燥症に対する内服薬(処方薬)を服用すると、ドライアイが改善する場合があると言われています。 - Q :ドライアイに良い食べ物は?
- A :基本的には、バランスの良い食生活がドライアイの予防・改善に有効で、いわゆる特効薬的な食べ物はありません。
ただし抗酸化作用のある食べ物、例えばほうれん草、ブロッコリー、青魚などはある程度有効ではないかと考えられています。 - Q :眼は温めたほうがいいの?冷やしたほうがいいの?
- A :どちらもやり過ぎはいけませんが、充血して熱を持ったような時には、軽く冷やすと症状が和らぎます。
また瞼の縁には、涙の中に油を出す「マイボーム腺」があり、温めることで分泌が良くなり、ドライアイ治療にも有効であることが知られています。
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絵 清水 理江
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