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色覚異常といわれたら

医学博士 安間哲史

学校などで色覚検査を受けたお子さんが「色覚異常の疑い」を指摘されたとき、「やっぱり」と思われた方、「まさか」と思われた方など、さまざまでしょう。色覚異常は日常生活上、ほとんど不自由はありませんので、お子さんが小さいうちは誰も気づきません。

ときに奇抜な色使いの絵を描いても今は個性の時代です。ゴッホやウイリアム・ターナーなどの有名な画家も色覚異常だったといわれています。個性ととらえて伸ばしていくのも、ひとつの生き方です。

お子さんが色の混同をすることも、ときにあるでしょう。色覚異常は治療で治るというものではありませんが、周りの社会は色覚異常に配慮した環境にゆっくりですが変わりつつあります。焦らずに見守ってあげてください。

医学博士 安間哲史

人間の目の網膜には、2種類のセンサーがあります。1つは「杆体(かんたい)」というセンサーで、明るさに非常に鋭敏に反応しますが、色の知覚には関与していません。もう1つが「錐体(すいたい)」というセンサーで、色を見分けたり、細かいものを見たりするものです。緑の光に主に反応する「M-錐体」、赤の光に主に反応する「L-錐体」、青の光に主に反応する「S-錐体」があります。

色覚異常は網膜にあるこれらの錐体の異常が原因です。M-錐体(緑錐体)に異常があると2型色覚、L-錐体(赤錐体)に異常があると1型色覚です。お子さんがどちらのタイプなのか、その程度はどうなのか、一度、きちんと眼科専門医の診断を受けましょう。S-錐体(青錐体)の異常は非常にまれなのでここでは触れません。

目と網膜の断面図

●2型色覚と1型色覚の違い
タイプ原因頻度・特徴
2型色覚 M-錐体(緑錐体)の機能不全、あるいは欠損 日本人男性の4%弱。黄緑と橙、緑と茶や灰色、青と紫、ピンクと灰色などを混同しやすい。
緑は普通の明るさに見え、薄暗くはならない。
1型色覚L-錐体(赤錐体)の機能不全、あるいは欠損 日本人男性の1%強。
上記の2型色覚の色混同の特徴に加え、ピンクと水色も混同しやすい。
赤が薄暗く見える。
●色覚検査について
色覚異常のスクリーニングには通常、「石原色覚検査表」が用いられます。このスクリーニング検査で色覚異常と判定されると、次に、そのタイプを調べます。
2型色覚と1型色覚を正確に区別するにはアノマロスコープという特殊な器械が必要ですが、通常は「標準色覚検査表」をはじめとした各種の色覚検査表や、パネルD-15テストという色並べ検査結果で診断します。
程度分類にもこのパネルD-15テストが使われます。このテストをパスすれば「中等度以下の異常」、パスしない場合は「強度異常」と判定されます。

お子さんが色をどう見ているのか、実際のところは分かりません。スマートフォンで撮影した画像の色を変換し、色覚異常の人の見え方を画面に表示するソフト、あるいは、色覚異常模擬メガネというものもでていますが、これらは強度の色覚異常の人の見え方を模擬体験させるものです。過半数の人の色覚異常の程度は中等度以下ですので、多くの人はもっと多彩な世界にいるはずです。

色覚異常の人は虹のスペクトルの中で、青緑色あたりの色に対してはわずかな色の違いも区別することができますが、それ以外の色では多少の違いは見逃してしまいます。ときには、色覚正常な人には全く違って見える色を混同してしまうこともあります。しかし、青系の色と黄色系の色とを混同することはありません。

色覚異常の人は見分けにくい色でも、色以外の手掛かりを巧みに利用して、色を判断する能力が経験とともに備わってきます。自分の経験した情報を活用しながら色の判断ができるようになるこの代償能力は、自分の感じている色と他の人が感じている色とが違うということを自覚して、初めて芽生えてくるものです。

色を間違えた経験を積んでいくと、色覚異常の子もあまり色の間違いをしなくなります。ただし、大きな対象物をゆっくりと時間をかけて見ることができるときとか、明るい環境の下で色以外の情報もたくさんあるといった、良い条件がそろっている場合でのことです。

雨が降っていたり、夕暮れ時、あるいは信号が点滅しているなどの悪条件が重なると、赤信号と黄信号を間違えたり、橙黄色の街灯と赤信号との見分けがつかなくなることもあります。

日常生活上では、違った色の靴下を左右にはいてしまわないように、くすんだ色の靴下には目印をつけておくことや、カレンダーの赤字で書かれた祝祭日にはマークをつけておくなどの工夫も大切です。服を選ぶときには一緒に見てあげましょう。また、焼き肉を食べるときにはその焼け具合が分かりにくいことなど、折に触れて教えてあげましょう。

1 型色覚では赤が薄暗く見えますので、バイクや車を運転するようになってからも、条件が悪い場合には前の車のテールランプに気づきにくいことがあります。また、ランプが目立たなくなる晴天下での運転では、前の車のブレーキランプの点灯に対する反応が遅れることもあります。この点は安全の為に一番大切なことですので、しっかり話しておきましょう。

平成5 年頃までは色覚異常の人の入学を制限していた大学や専門学校が多くありましたが、近年では特殊な大学や専門学校を除き、制限がなくなりました。また就職時の健康診断で色覚検査をしなくてもよくなりました。全ての人の人権を尊重し、均等に機会を与えていこうという本来の姿になってきています。

しかし見方を変えれば、学んだり、仕事を選択する判断やその結果に対する責任を、全ての人に同等に負わせる状況になってきたということです。色覚異常の人は自分で自身の色に対する能力を判定し、自己責任で進むべき分野を選んでいかなければならない厳しい状況になってきたともいえます。就職するときには、できるだけ具体的に仕事の内容を調べておくことが大切です。

●就職に際して問題になる場合とは
自動車運転免許は、色覚異常があってもほとんど問題なく取ることができます。また就職に際しても、よほど特殊な職場でなければ問題はおこりません。
しかし、豆粒の様に小さな信号灯の色の判断を、他の情報がほとんどない真っ暗な中でも瞬時に求められるような、航空機のパイロットや鉄道運転士、船舶航海士には残念ですが適性がありません。
●色覚異常の人の方が優れている場合もあります
緑豊かな森の中では、保護色に身を包んだ小鳥や虫などを探し出すのは大変です。色覚が正常な人は色の感覚が最優先され「明るい緑」、「深い緑」、「黄緑」、「青緑」など、全体を「緑色の群れ」として知覚するからです。
それに対し、色覚異常の人には「青みがかった緑」と「黄みがかった緑」とはかなり違った色として知覚されますので、全体の「緑」の感覚に惑わされず、ときには小鳥や虫などを、色覚正常な人よりも素早く見つけ出すこともできます。
●日常生活における2 型色覚と1 型色覚の違い
2 型色覚の人は、自身が色覚異常であることを知ってさえいれば、日常生活には自然に対応できるようになっていきます。一方、1 型色覚の人は、危険信号として使用されることの多い「赤」が見にくいことを常に意識しながら生活していくことが大切です。
●色を判断する手掛かり
  • 形、質感や光沢、明るさや鮮やかさの違い、色の対比
  • 記憶や経験、あるいは状況の正確な把握

人間は父親と母親から22 対(44 本)の常染色体と1 対(2 本)の性染色体を受け継いでいます。性染色体にはX 染色体とY 染色体があり、X 染色体とY 染色体を1 本ずつ持つと男性になり、X 染色体を2 本持つと女性になります。

色覚異常の遺伝子はX 染色体に存在しており、この遺伝子をX' と表すことにします。この遺伝子がどのように受け継がれていくかを次ページの図に示します。

男性はX 染色体を1 本しか持っていませんので、これがX' であれば色覚異常になりますが、女性はX 染色体を2 本持っていますので、このうちの1本だけがX'であれば色覚異常は表にでず、色覚異常の遺伝的保因者になります。2 本ともX' であれば女性でも色覚異常になります。

日本人では男性の20 人に1 人、女性では500 人に1 人の割合で色覚異常の人がいますが、色覚異常の保因者は女性の10 人に1 人の割合になります。例えば、男女半々の40 人のクラスだと、色覚異常の男子が1 人、保因者の女子が2 人いることになります。

色覚異常は、それほどまれなことではありません。

色覚異常の遺伝形式(伴性劣性遺伝)

1組の夫婦から男子(四角)が2人、女子(丸)が2人生まれたとすると、確率の上からは、父母の色覚の状態によって上記の6種類のパターンで色覚異常が遺伝するします。

●お母さんにお願い
上の図に示されているように、母親が色覚正常で、保因者でもない場合12、生まれてきた男児は全員が色覚正常ですが、父親が色覚異常だった場合は2女児は保因者になります。一方、母親が保因者であった場合は34、父親が色覚正常であっても3男児は半々の確率で色覚異常になり、父親が色覚異常だった場合は4女児も色覚異常か、あるいは保因者になります。母親が色覚異常であった場合は56、男児は全員が色覚異常になり、父親も色覚異常だった場合は6女児も全員が色覚異常になります。
このように、色覚異常は母親を中継して表にでてきます。しかし、ここで一番大切なことは、お母さんが負い目や責任を感じすぎないことです。先祖からの体質を受け継いだことは仕方のないことです。女性の10人に1 人は色覚異常の保因者です。
お母さんが色覚異常をどのように受け入れ、どのように思っているかを、お子さんは直感的に感じ取ってしまいます。お母さんが「かわいそうだ」と思えば、お子さんも「自分はかわいそうな子だ」と思ってしまいます。色覚異常も人の持つ多くの能力のうちの1 つだと割り切って、その子の個性として尊重して接することが大切です。鉄棒の逆上がりができない子は本を読むことが得意だったり、暗算が不得意な子は電卓を上手に使うかも知れません。生まれながらに視力の悪い人には、聴覚や触覚が研ぎ澄まされている人の多いことも事実です。
お母さんが悩むとお子さんに悪い影響を与えます。劣等感を感じたりしないように、お子さんの色の見え方を無理に直そうとせず、例えば「この水色のシャツもいいけど、あちらのピンクのシャツも似合いそうだね」と、普通の会話の中でゆっくり気長に色覚が正常である人の見え方を教えてあげましょう。

これまで長い間、プライバシー保護の観点のないまま、「石原色覚検査表」を用いた色覚検査が学校での健康診断で行われてきました。検査を横から覗いていた友人に「こんなのが読めないの?」と驚かれ、その延長線上で色覚異常の人は不当に差別されてきました。

だからといって色覚検査そのものが悪いわけではありません。色覚異常があった場合、自分自身でそのことを知っていればいろいろな対策を立てることができるからです。例えば、物の色を覚えると人の顔を緑に塗るような色使いはしなくなります。これも一種の学習で、クレヨンや色鉛筆に色が分かるように色名を付けておくことは大切な学習補助になります。

学校現場でも色覚異常に対する理解が進んできています。緑の黒板には赤のチョークは使わず、白か黄色のチョークで書くように学校の先生は注意しているはずですし、現在使われている教科書には、色のバリアフリーに配慮した色使いが工夫されています。

社会に望まれることは、色覚異常の人がいることを前提とした環境を作ることです。その人たちが色混同や色誤認をおこしにくく、色覚正常な人にも色覚異常の人にも心地よいと感じられるようなユニバーサルデザイン化を推進していくことが大切です。

不特定多数の人が利用する施設では、高齢者や障害者などに配慮したバリアフリー化が進んでいます。目の悪い人に対しては、地面や床面に敷いてある黄色の点字ブロック(視覚障害者誘導用ブロック)があり、足の悪い人には階段の横に設置されているスロープなどがありますが、色覚異常の人に対するバリアフリー化はまだまだ遅れています。

色覚異常に対するバリアフリーとして、カラーユニバーサルデザインが提唱されています。これは色覚異常に配慮した配色を基本にしたもので、色覚正常者にも自然に感じられ、高齢者にも優しく見やすいデザインです。

例えば、青と黄色の組み合わせであったり、明るさや鮮やかさに差をつけたもの、あるいは、色の周囲に白や黒やグレーなどの無彩色で縁取りをつけたり、表示の形を変えたデザインです。

色覚異常は治るものではありませんが、近い将来、さまざまな分野にカラーユニバーサルデザインが採用されてくると、色覚異常の人にも住みやすい世界になることでしょう。

Q :2型色覚と1型色覚の違いはなんですか?
A :一番大きな違いは「赤」に対する明るさの感じ方です。
2型色覚の人には暗く感じる色はありませんが、1 型色覚の人は赤い光や赤い物体を、色覚が正常な人の10 分の1 位の明るさにしか感じません。ときには灰色と混同してしまうこともあります。
「赤」は現在の社会では危険を知らせる色として使われています。例えば、赤信号は「止まれ」ですし、車のブレーキランプも「赤」です。1型色覚の人は「自分には危険信号が見にくいんだ」ということを十分に自覚し、状況判断していくことが大切です。
Q :色覚異常の人は照明によって色が変わって見えるというのは本当ですか?
A :色覚異常の人は照明の色によって、ときに知覚する色が大きく変化するという特徴があります。
ショーケースに置かれた生肉は照明の色によって新鮮に見えたり、やや古そうに見えたりします。洋服の色も太陽の下と白熱灯の下とでは色が多少違って見えます。しかし、白熱灯の下で見れば全てが「ダイダイ味」を帯びてしまうのかというと、そうでもありません。これが「色の恒常性」といわれるもので、色が認識されるための大切な機能の1つです。
色覚異常の人ではこの状況は少し違ってきます。色覚異常があると、「赤」対「緑」の色対比の感覚よりも、「黄」対「青」の色対比の感覚の方がずっと強くなっていますので、例えば赤みと紫みの混じった「ピンクの花」は太陽の下ではやや薄めの「青い花」に見えますが、青味成分がほとんど含まれていない白熱灯の下では「青」の感覚が消えて「黄」の感覚だけが残りますので、「ピンクの花」は赤みがかった「黄色の花」に見えてしまいます。

解説:色の認識
網膜には緑(M)、赤(L)、青(S)の「錐体(すいたい)」という3 つの色センサーがあります。これらの錐体が光に反応すると、赤と緑の錐体からの信号が足し合わされた黄信号である「黄」対「青」と、赤と緑の錐体からの「赤」対「緑」の、2 つの対比する色信号に網膜内で変換され、脳に送られて色が認識されます。

Q :2 型色覚は「緑」、1 型色覚は「赤」が弱いはずなのにどうして同じような色間違いをするのですか?
A :2 型色覚も1 型色覚も「黄」対「青」の対比信号が強く、「赤」対「緑」の信号が弱いという共通点を持っています。
2 型色覚は緑の錐体、1 型色覚は赤の錐体に機能不全がありますが、どちらの錐体からの出力が低下しても「赤」対「緑」の対比信号は減弱してしまいます。一方、この2つを足し合わせた「黄」への色信号は弱まらず、「黄」対「青」の対比信号は正常に出力されます。このような共通点を持っているため、2 型色覚も1 型色覚も同じ様な色間違いや色混同をするのです。
Q :色覚異常の保因者は女性だけですか?
A :色覚正常な男性から色覚異常が子孫に伝わっていくことも、ごくまれにはあります。
人類は進化の過程でX 染色体上に赤と緑の2 つの遺伝子が形成され、色覚を獲得しました。通常は赤遺伝子が1個、緑遺伝子が1 個ですが、赤遺伝子1 個に対して緑遺伝子を2 個以上もつX 染色体もでてきました。現在、色覚正常な日本人男性の約60%は複数個の緑遺伝子を持っています。
緑遺伝子が複数個あっても、2 つ目以降の緑遺伝子は表にその性質が現われませんので、2 つ目以降の緑遺伝子が仮に色覚異常の緑遺伝子であったとしても、1 つ目の緑遺伝子が正常であれば色覚は正常になります。
このような男性のX 染色体が受精によって女児に受け継がれるとき、2 つ目以降にある色覚異常の緑遺伝子が、「組み換え」によって偶然に1 つ目の緑遺伝子の場所に移動したとすると、その女児は色覚異常の保因者になります。

見分けにくい色の組み合わせ例

この図は検査表ではありません。

東京女子医科大学眼科の中村かおる先生に提供していただいた見分けにくい色の組み合わせの例を表示しています。ただし、色覚異常にはタイプや程度の違いがありますので、ここに載せた色の組み合わせは目安です。

絵 清水理江

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